Artist's commentary
ことり解体新書#34後編
【セキセイインコのガラパゴス化】
〜後編:日本での独自進化とジャンボ系との出会い 〜
こんにちは、リズです。
前編ではセキセイインコがオーストラリアからヨーロッパへ羽ばたいた歴史をたどりました。
ここからは、日本に渡ったセキセイインコがどんなふうに独自の進化=ガラパゴス化を遂げ、そして近年ふたたび世界の血と混ざり合いはじめているのかを見ていきます。
1. ガラパゴス化と羽衣セキセイ
戦後、日本のセキセイインコは長く国内血統だけで繁殖されました。
その結果、小型でよく飛び、繁殖サイクルの早い体質が自然と選ばれ、世界標準とは少し異なる“日本サイズ”が定着していきます。
1950年代には、頭の羽が冠のように巻く羽衣セキセイインコという独自品種も大阪で生まれました。
(英名はジャパニーズヘリコプター🚁)
これは突然変異を固定した日本オリジナルで、現在も愛好家が守り続けています。
こうした歴史を背景に、日本のセキセイは「丈夫で小柄」「色変わりが豊富」という独特の魅力を育んだのです。
2. ジャンボ系との再会
1960年代後半、イギリス生まれの大型展示系セキセイ=ジャンボセキセイが試験的に輸入されます。
当時は愛好家の間にとどまりましたが、21世紀に入りSNSや輸送体制の進歩で再び注目を集め、輸入と繁殖が活発化。
近年は、純血ジャンボだけでなく、国内の並系にジャンボの血を少し取り入れた中型系セキセイも人気です。
標準30〜35gの並系に比べ、40〜50gほどの体格をもつこれらの個体は、ジャンボの穏やかさと日本系の丈夫さを兼ね備える理想的な“あいの子”として評価されています。
3. 体格向上の裏にあるリスク
ただし、大型化には注意点も。
ジャンボ系は長年の近親交配や見た目優先のブリーディングにより平均寿命が短い(5年前後)ことが問題視されています。
呼吸器や心臓への負担、肥満傾向なども懸念されており、欧州の愛好家の間では計画的アウトクロス(異系交配)による健全化が課題になっています。
中型化した日本のセキセイも、適切な食餌と運動がなければ脂肪肝や産卵障害を起こしやすくなる可能性があります。
体重管理や光周期の調整、換気・湿度管理など、日々の細やかなケアがこれまで以上に大切になります。
4. 色柄の多様化とこれから
ジャンボ系の血が入ることで、羽の色や模様の複雑さもさらに広がっています。
青・白・ライラック・オパーリンやパイド系統など、もともと豊富だった色変わりに、新しい組み合わせや深みが加わりつつあります。
その一方で、流行系統にブリーダーが集中すると再び遺伝的多様性の低下が起きかねません。
健全な繁殖を続けるには、血統を計画的にペアリングさせ、系統管理をきちんと行うことが欠かせません。
5. 未来へ
いま日本で育つ中型セキセイたちは、世界のジャンボ系との再びの交わりの中から生まれた新しいスタンダードになりつつあります。
その未来を健やかに保つには、飼い主ひとりひとりがエビデンスに基づいた飼育と繁殖を意識し、日常の観察と記録を続けることが何よりの支えになると信じたいです。
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一羽の小鳥が、野生から始まり、人の文化の中で色と形を変えてきた150年。
その物語は、私たちが命をどう愛し、どう付き合っていくかの足跡でもあります。
今日もケージをのぞく“いつもの顔”に、小さな歴史が静かに息づいている——そう思うと、毎日の観察がもっと愛おしく感じられます。
