Artist's commentary
【心まみれ】トローヤ【下級】
☆素敵企画元様:【pixiv #92482812 »】
☆トローヤ・フォン・リヒトオーフェン(Troja von Richtofen)
☆素敵な主従関係のご縁をありがとうございます!(20211030)
○アンネリーズ・フラッゲルムさん【pixiv #93467027 »】
呼び方:初めはフラッゲルム様→アンネリーズ様、アン様、ご主人様(呼びたい:アン)
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ーいじわるな兄と姉が怖くて怖くて大嫌いだった。恐ろしくて仕方がなかった。いつの間にか世界の全てが、恐ろしくなっていた。
兄と姉が出掛ける度に、彼らが乗る馬車が事故に遭うように祈り続けた。神様そんな願いを聞き入れてくるはずもないのに。
呪いを願う自分も大嫌いだった。
臆病で泣き虫なみっともない自分を優しく、受け止めてくれるような主人が欲しかった。ずっとずっと欲しかった。
不相応にも欲しかった。
ー階段を降りていたら、後頭部に衝撃が走った。本が空から落ちて来たのだ。
見上げた先には、自分より遥か高くの地位にあることを示す、純白の制服に身を包んだ赤い髪の少女がいた。少し驚いたような顔は、すぐに意地悪そうな顔に変わっていた。
「えっ、ご、ごめんなさぁいっ…本……どうぞ…。うう、…トローヤが前にいるのわかっていたのに…わざと本を…トローヤに…。そんなにトローヤのことがみんな嫌いなの…ただ、歩いてただけなのに…うう、ひっく…」
ーーフラッゲルム公爵家のご令嬢、アンネリーズ・フラッゲルム様。
地方に広い領地を有し、統治する大貴族の一人娘。華美を好むのか、彼女が所持するものは全て絢爛豪華だった。彼女自身、華やかで自信に満ち溢れていた。周りには常に人がいて、楽しそうだった。でも、性格はわがままで傲慢で、私には優しい人には思えなかった。きっと、関わることはもう二度と、ない。
「……す、好きでこんな顔してるんじゃありませんからぁ……ふん…貴族の誇りなんて、馬っ鹿みたい…いじわるな人はみんな消えちゃえばいいのよ…」
「せ、政治の本……有難う御座います…勉強はしないと……でもトローヤもその小説読みたい…」
「ご、ご機嫌よう、お姉様方……あの、アンネリーズ様、トローヤ、どこにいれば…」
…アンネリーズ様は、たくさん私に話しかけて来てくださった。でもそれは友情とか、じゃない。私を良いように使える下級貴族にしか思っていない。だから、私の心など気にも留めてない。ーそう思っていた。
「…ひっく、うぅ……悔しいけど、いいんです… ア、アンネリーズ様が今、こんなトローヤのために怒ってくれたから…それが泣いてしまうほど、とても嬉しいから、もういいの……有難う御座います…」
アンネリーズ様が私の為に怒ってくれたこと、泣いている理由を聞いてくれたことが本当に嬉しかった。
まさか自分を慰めてもらえるとは思わなかった。自分のために怒ってくれる人なんてどこにもいないと思っていた。
アンネリーズ様をいじわるで、わがままな方だと思っていた。でも違った。彼女は優しくて慈愛に満ち溢れたーー私が願っていた、優しいご主人様。
…いつものように見張りをしていた。
今までは苦痛であったが、最近は彼女の近くにいられるとなぜか安心できたから心地よかった。
日が落ち始める。終わりを告げる声がいつまで経ってもなかった。ノックしても声をかけても反応がなかった。おそるおそるドアを開けると…彼女は眠っていた。
とても可愛らしい寝顔だった。解放されたような…どこか幼さを残す、穏やかな顔。…何か譫言を話していた。
ブランケットを取り、ぎこちない手で彼女に被せようとしたその時、…彼女から父と母を呼ぶ声が聞こえた。
噂で聞いたことがあった。フラッゲルム公爵家の当主、つまりアンネリーズ様のご両親は亡くなられていて、今は彼女の叔父様が当主を…。嫌な考えがよぎる。打ち消そうとした。しかし、もしそうだとしたら。
寝ている彼女の手を握り、耳元で呟く。
「だ、大丈夫です…お父様もお母様も、あなたの近くにいますから…」
自分の声はいつもながら震えていた。こんな震えた声じゃ、安心なんてさせてあげられない。彼女の力になりたいと強く思うのに、何も出来ない自分が不甲斐なかった。
(アンネリーズ様には何か…特別な事情がある。でもその何かが、トローヤにはわからない。複雑なお家の話かもしれない…。あなたのために、出来ることをしたい。トローヤのためにあなたが怒ってくれたときから、ずっとそう思ってる…。)
怒られるかもしれない。話してくれないかもしれない。それでも…知りたかった。
ーーアンネリーズ様はずっと一人で、血の滲むような努力をしてきていた。ご両親を殺害したであろう叔父に、笑顔を振り撒くのはどれ程の屈辱だったのだと、誰が想像出来ようか。
どれだけ寂しかったのだろう。どれだけ苦しかったのだろう。
不意に手が伸びる。
…自分が寂しい時、仲の良かった使用人は抱きしめてくれた。その温かさが嬉しかった。
自分とアンネリーズ様は違う。まだ主人と従者ではない。だから、こんなことはよろしくない。先生が見たらきっと怒る。
でも年齢で言ったら私は彼女より年上だから、いいじゃないか。
アンネリーズ様を独りにしたくはなかった。
彼女を抱きしめた時、やけに小さく感じた。身長差はあまりないはずなのに。
「…トローヤを救けて下さったように、トローヤもあなたを救けたい。」
***
……あの青く美しい瞳が、わたしだけを見ている。いつもは怖くて、逸らしていたけれど、今は違う。かち合う視線に胸が昂揚している。自分の心が恐怖以外で動くこと等なかったのに。
願っても努力しても手に入らないと思っていたものが今、目の前に。ーーブローチと共に。
涙がこぼれる。
自分から流れる涙なんて嘆き以外にないと思っていた。
「…ど、どんな道を歩まれようとも、トローヤはあなたのおそばを離れたくはありません…。トローヤにも、そのお手伝いをさせて下さい。アンネリーズ様が血に穢れるならば、トローヤも一緒に。心をあなたに…捧げます。」
いままで世界の全てが恐ろしかった。でもあなたと一緒なら怖くない。どんな世界も怖くないと思えるの。
「どうか、トローヤをずっとお側に置いてください…ーーアン。」
あなたに手を引かれ、導かれたい。
強く、頼もしいあなたの側にいて安心したい。この甘えた気持ちを今だけお許しください。いつの日か強くなり、必ずあなたの為に尽くし、あなたをお守りいたします。
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