Artist's commentary
まのさば感想
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離席の時間も含まれるが、読み終えるのにかなり時間がかかってしまった
作品としての評価というよりもメインシナリオに関する登場人物達についての個人的な感想を書き連ねているので、まだまのさばをプレイしていない人は読まないように注意。
[** 非常に高い完成度(クオリティ)]
知り合いに勧められて読み始めた。端的に言ってメインシナリオの完成度が高かった。
アートワークや世界観が王道寄りでケレンみが強く、一般的な感覚として読みやすかったと思う。
逆に王道を外した新規性のある演出も多く、熟練のシナリオライターがきちんと考えたメインシナリオという印象が強かった!
明確なリファレンス元としてダンガンロンパ風味を漂わせているのも、ダンガンロンパが好きな人間に興味を持ってもらうためだったり、むしろ二つの作品を比較してもらうことでどのような差異があるのか?意識的になってもらうためという意図に感じられた。
実際二つの作品はまったく異なるぞ!という意見を耳にするが…ダンロンや逆転裁判といった古典とすら言える推理ノベルを読んだことがない自分にとっては判別がつかない部分だった。
というわけでsteamセール中だったダンガンロンパ1と2を先日購入。まのさばの余韻が冷めたら読んでみようと思う。
そんな風にダンガンロンパの購入を促された人間は多いような気もする
ところでこの作品に対する個人的な感想がいくつかあるので、
今回は自分の中でも印象が強く残っている順にそれを記載していこうと思う
[** 桜羽エマという主人公]
赤い方のヒロインとは対照的に気弱でお人好しで頼り甲斐がなく、庇護欲を掻き立てられる少女。
ヒロに粗暴に扱われたり、審問の場で相手に強く言い返されたり追い詰められたりする姿を見ているとキュートアグレッションを感じる。
コイツが一番かわいくて一番えっちなんだよ。
なんだその太腿のベルトは!正しくない!
そしてエマに犬耳を生やした二次創作の創始者、貴方の発明は神話に新しい章を書き足した預言者の業とすら言えるだろう!
他にも魔女裁判で当てずっぽうの推理を披露して事件を掻き乱す橘シェリーに対し、その内容を整理して機転の効いた推理を進めていく桜羽エマにギャップ的な魅力を感じた。
正確に言えば推理をしてるのはプレイヤーである自分自身なのだが、だからこそ主人公に個性があって魅力的に感じられることはノベルゲームのプレイ体験として超重要だし、彼女に愛着を感じられる理由だった。
二階堂ヒロの推理中に「それはおかしいよ!🤚」(パリーン)と口を挟んでくる演出が入った時とか素直に興奮したし、一周目でエマの性格を知っている自分からすると彼女の能動的な部分というのはしっかり腑に落ちてくれる感覚があった。
推理をエマに邪魔されてカチーンとイラつく瞬間があるのはプレイ体験として、二階堂ヒロとしてこのゲームでしか体験できない思い出になった。
[** シェリーとハンナ]
エマパートの事件で描かれた2人の関係性の結び付き、指先の寄り添い合うような気配には百合豚ではない僕ですらオタク汁が止まらなかった
裁判のたびに"名探偵"の推理で事件の内容をいち早く予測してくれるシェリーの存在は読み手としても非常にありがたかったし、前のめりで明るいキャラクター性がどんな場面でも揺るがないのが、殺人事件ばかりのこのゲームでオアシスのように感じられた。だからこそハンナの事件で裁判が始まっても静かなままの橘シェリーにはありえないぐらい戸惑ったし、シェリーとエマの審問を読んでいる時がこのゲームにおける緊張のピークだった
二人がホウキの上で約束を交わすシーンとか、魔女になれないまま焼かれていくシェリーの姿とか彼女の人間性も相まって作中で屈指に美しいスチルだと思っている。でも二人の事件で一番良かったのはシェリーがハンナを絞殺するシーンがないこと。
この2人の嘱託殺人なんて詳細が描写されなくても感動的なシーンであることが理解できる。
シェリーがハンナを殺す際に2人の間でどのような会話があったのか…?
それは2人だけが知っていればよいことなのだろう。
[** ノアヒロやアンミリといった擬似家族的な友愛]
自分たちの居場所を牢屋敷に見出してしまうアンミリは子が母に甘えるような距離感に見えたり、ノアをほったらかしにしないヒロの姿は父と子の関係に見えたりして心がほっこりした。
僕は血のつながりがない人間同士が家族のように見える瞬間にとにかく弱い。
特にお互い謝るタイミングがうやむやになって時間が過ぎ去ってしまったノアヒロは、ヒロがそのことを忘れてしまってもノア(子の視点)は気にし続けていたというモキュメンタリーチックな質感に感情移入させられた。
ただ、ヒロに叱ってもらうために/仲直りのために友人のアンアンを殺すのはトレードオフとして微妙に成立してない感じがしたが……動機に登場人物の中で唯一裏表がないのは城ケ崎ノアらしいとも感じられる。
だからノアとアンアンの距離感にも独特な雰囲気がある。仲がいいのかな〜っと思ったら案外そうでもないのかな?みたいな、そういう子供の友情ってあるよね〜なんて思ったり。本編にはエマ、シェリハン、メルルのピクニックシーンがあったけど、僕個人としてはノアヒロとアンミリの保護者同伴ピクニック姿が見たいと思った。
[** ちっちゃいなのちゃん]
このゲームでとくに丁寧なのは、登場人物の発言が事件が起きる前とそのあとで常に一貫しているというところだと言える。
セーブデータを遡って事件が起きる前のシーンを見返したりすると色々な発見があって面白い。
とくにナノカと看守にまつわるシーンは、ナノカの生い立ちと牢屋敷での発言・行動を照らし合わせることで非常に綺麗にまとまっており、処刑シーンで明かされる殺人の動機にはとても納得させられるものがあった。普段から油断と隙の少ない彼女の雰囲気とは対照的に、弱弱しい妹としての一面が最期に垣間見える演出には直球で心をえぐられた。
[** 二階堂ヒロ]
二階堂ヒロの変人っぷりは第一話の時点で最大出力となっている
登場人物達との会話の中でも、自身が正しいと思う通理には寛容で冷静な判断を下せるが、”正しくない”と思うものには攻撃的で衝動性も抑えられなくなるという狂気っぷりを見せている。
そんな彼女が「正義の執行者」としてどのような活躍を見せるのかと思えば、ゲーム開始直後にエマを突き飛ばしてケガをさせたり、看守になぐりかかって見るも無残な死体姿となったり......この女、本当にありえない!!!
とはいえ彼女が持つ魔女因子の能力は「死に戻り」。桜羽エマ視点で送る一週目が終わるとゲーム開始直後の状況でヒロが目を覚まし、主人公が彼女へと交代する。最初の被害者になるはずだった城ケ崎ノアをヒロが気にかけることで事件が回避されたり、他にもココの能力やマーゴのケガを分岐点としてヒロルートは桜羽エマの視点とはまったく異なる様相を描いていく。
♦「死に戻り」について
ノベルゲームやジュブナイル小説で頻出する、いわゆる”タイムリープ”を指す超能力。セーブやロードといったノベルゲーム特有のシステムに対しメタとなるSF要素としてシナリオライターに好まれる手法であり、逆に言えば現代においてオタク垢のついた/一般化しすぎて見慣れた表現となっている。
僕自身はそういった同じ状況を何度も繰り返す作品を見飽きているので、ヒロが何度も記憶を保ったまま死を繰り返す展開になったら読者としてのモチベーションが維持できなかったと思う。だからヒロが「自殺は正しくない」という認識を持ち合わせていて、ストレスによる魔女化の弊害によって自分自身の判断で能力を使用できないという縛りが存在するのは非常に好印象だった。
要するに
・何度も死んでやり直すことで、記憶を手がかりに事件を解決する ×
・半永久的に繰り返される事件から脱出する方法を考える ×
・死に戻りの能力を持っているが、能力を使用すると魔女因子が濃くなって魔女化してしまうため己の力だけで状況を切り開いていかなければいけない状況 ◎
ということ
エマと同様、魔法がほとんど使えないような状態でどうやって魔法少女たちと魔女裁判を繰り広げるのか非常にわくわくする展開となっていた。”裁判前に手がかりを探るパート”が無いという制限もエマのパートとは違った新鮮味を演出してくれていて面白かった。なによりヒロが審問を行う姿は画面として圧倒的な見栄えがあるし、彼女の決め台詞も常に気合が入っていて痛快だ。
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それからこの作品で一番ヤバかったのは、最終章で少女たち全員を魔女化させるために二度目の”死に戻り”を使って魔女化する二階堂ヒロだ。
突然現れた二階堂ヒロが異形の姿で魔女裁判を強引に開廷し、少女たち全員のトラウマを片っ端から言い当てていく姿はほとんどギャグそのものだったと言える。シナリオの筋道が明確になっている状態で理屈が通ってしまっているのが不思議な読み心地だった。
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流石に12人全員の魔女化を一つ一つを作業のようにこなしていく演出は冗長にも思えたが、20時間以上シナリオを読み続けて登場人物全員に愛着がある状態だと、もう黙って最後まで見守るしかないよね!という心境。
このあとも月城ユキが出てきて全員で彼女を説得するという、ある程度予想が立てられる展開だったことに対して、二階堂ヒロが他の作品では滅多にお目にかかれないような”馬力”で突き進んでいく姿は最後まで見るに飽きないものだった。
エマとヒロが他の少女たちと力を合わせながら月城ユキと対話をする展開も”ダブルライダーキック”みたいなテンション感で読んでいたし、事件を整理して手がかりや証言をもとに犯人を追い詰めていくゲームが最後の最後にIQを落としまくるのがむしろ新鮮で読んでいて楽しかったとも言える。
[*** そのほか]
このゲームは事件による犠牲者が生まれて裁判の参加人数が減っていっても推理する内容の複雑さが変わらなかったり、裁判の演出に毎回味編で新しい要素が見つかるのが魅力的だった。だからヒロイン12人全員分の感情移入に必要な情報も揃えられているし丁寧で真面目なメインシナリオが組まれていると感じられる反面、後半は推理ゲームというより読み物としてのエンタメ性を強く感じたのが予想外だった。まあ、この物語で僕が感動したことはゆるぎない事実なんだけどね。
(追記12/22)
推理ゲームとしてのユーザビリティには不満を感じるが、製作者が推理させたい内容とプレイヤーが推理して指摘したい部分がかみ合わない瞬間があるというのは解決が難しいように思う。
幸いなことに、原作が完結してもこのインターネットには登場人物たちの二次創作が溢れているので、僕はこの読後感に酔いしれながら作品を漁ったり気が向いたら自分でも描いてみたいと思っている。
僕におすすめの二次創作があったら、あとでこっそりDMに送ってくれると嬉しいな
くのいち かずひと
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